心象風景

なんですか、これ

【感想】『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』 -マッツ・ミケルセン欲張りセット-

アルキメデスが巨大鉤爪や太陽光ビームでローマ軍を撃退した逸話はもう古い!
時代は鉄製ドラゴンでローマ軍を蹂躙!!!!!!!!

 

 

映画史に残るアドベンチャー映画インディ・ジョーンズシリーズ。
その最新作インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が2023年6月30日に公開されました。


はじめに言っておきますね。
正直あまり面白くはなかったです。
でも観て良かったとも思える映画でした。


シリーズ自体は全作観ているんですが、如何せん観たのが10年以上前という体たらく(最後の聖戦だけは何年か前に金ローで流し見してますが)。
最近金ローで全作やってましたけど忙しくて一作も観れなかったんですよね。

そしてろくに予習もできずに迎えた今作。前作の『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』から15年経ての公開となりました。
前作時点でハリソン・フォードは60を超えていたので既にアクションが見劣りしていた覚えがあります。それが現在の年齢を調べてみれば80歳とのこと。


絶句


一瞬30歳の間違いじゃないかと思いました。ハリソン・フォードなら少し見ない間に若返ってそうだし。
常識で考えれば、もうアクションの質がどうとかのレベルではなく激しい運動を控えなければならない年齢です。
しかし今作は公開されました。
はっきり言って昔のようなアクションはできないと分かっていますし、ドキドキワクワクの冒険も期待していません。なぜ今更新作を?という疑問すらある。
でもやっぱり観たいんですよね。
何と言っても今作がおそらく、ハリソン・フォードのインディを映画館で観られる最後の機会になるわけだから。
私はインディ・ジョーンズを映画館で観られた世代ではありません。前作のクリスタルスカルも残念ながら当時は映画に興味が無かったので数年後にレンタルで観たくらいです。
二度と無い機会を逃すわけにはいかないので、公開から一週間遅れになりましたが観て来ました。


そこまで言うのに何故一週間も遅れたのか。
いやほんと忙しかったんだって。
マザークリスタルを破壊してヴァリスゼアを救うのに忙しかったんだって。

 

感想

展開・ストーリー

1944年、インディ・ジョーンズが仲間のバジル・ショーと共にナチスから時を超える力を持つダイヤル「アンティキティラ」を奪う、という活劇から始まります。
そして1964年。
人類初の月面着陸に熱狂する世間とは裏腹に、年老いたインディにかつての覇気は無く、大学教授も定年退職、息子を失くし、妻とは離婚調停中という物悲しい現状。
そんな悲壮感漂う中、バジル・ショーの娘、ヘレナ・ショーが接触。半分しかないダイヤルの片割れを探索しようと話を持ちかけて来て、更にはダイヤルを狙う組織まで出てきて大騒動。人死にまで発生する始末。これが本当の退職パーティーってことか?
その後はダイヤルを盗んだヘレナを追いかけてモロッコでカーチェイスしたり、エーゲ海で海に潜ったり、ダイヤルの半分を探しにアルキメデスの墓で謎解きしたり、完成したダイヤルの力で時空の裂け目へ突入し紀元前の212年のシラクサへタイムスリップしたり。最後だけぶっ飛びすぎだろ。
過去でアルキメデスと対面し感動したインディは元の時代に帰りたくなかったがヘレナにワンパンされて強制帰宅。
妻マリオンと再会し、和解する。
というのが全体の流れ。


内容としてはぎっしり詰まっているのですが、これいる?みたいなシーンも多くテンポが良かったとは言えないようなストーリーでした。
まず最初の過去編。本編に入る前の序章みたいな話なのに結構長くやってた感じがありました(30分くらい?)。ロンギヌスのくだりは省略して、もっとシンプルにアンティキティラを奪うだけでよかったと思う。空いた時間は後でマッツ・ミケルセンを詰め込んでおけば大丈夫です。
ロッコでのカーチェイスも削って問題無かったかなと思いました。とりあえずカーチェイスやっておけというのは洋画アクションの悪いところです。今はワイルドスピードみたいな最新で超高品質のカーチェイスが観られるのに1960年代のモロッコでカーチェイスされても興奮はできません。追いかけてくるギャングの俳優がアダム・ドライバーとかだったら面白くなってたかもしれない。婚約破棄されたカイロ・レンが追いかけてくる絵面、超観たい。
あとは海底探索の潜水シーン。単純に水中は画面映え悪いし、もっさりしていてスピード感を削いでしまっていたのですごく微妙でした(建前)。海に潜るならサメ出さなきゃダメでしょ(本音)。


インディ・ジョーンズといえば"冒険"であり、未開の地や遺跡や洞窟の探検が楽しいシリーズです。
それが今作では冒険感が薄れていた印象でした。冒険していたと言えるのはアルキメデスの墓くらいかな。
まぁあの冒険感は1930年代設定だからこそ出せたというのも分かります。1960年代に未開の地の冒険なんて現実味が無いですからね。ましてや宇宙に想いを馳せる時代。要はそういう冒険が時代遅れなんですよね。作中でのインディの扱いもそうですし、言ってしまえばこのシリーズそのものが遺物と言っても過言ではない。でも、だからこそインディ・ジョーンズならではの"冒険"に挑戦してほしかったなぁと思いました。とは言っても街中での乗馬チェイスはめちゃくちゃ良かったです。


終盤について。
このあたりのマッツが表情コロコロ変わって面白いんですがそれは置いといて(嘘、本当は置いておきたくない)、ついに来るところまで来てしまいましたね。そう、紀元前212年へのタイムスリップです。
今までのシリーズでは遺物の不思議パワーが本格的に発揮されたことって無かったと思うんですが、今回は完遂しちゃってます。前作で宇宙人が登場した件でも賛否両論あったのに更に飛び越えていきました。シラクサ包囲戦に飛行機で突っ込んでいく様はもはやインディ・ジョーンズの絵面ではない。
ドラゴンと勘違いされて飛行機を槍で貫かれながらも機銃で応戦し、ローマ軍に壊滅的被害を与えていくフォラー一味。こうしてアルキメデスに新たな逸話が追加されたのだった。
フォラー達は撃墜されて死にますが、インディとヘレナは無事に飛行機から脱出。
過去に戻りたいインディVS一緒に帰りたいヘレナ勃発。結果はヘレナ圧勝。
ここどうなんですかね。未来に希望を持てないインディが夢のような過去の世界で生涯を終えたいという気持ちは否定できないと思います。でもそれは他人から見たら永遠に会えないことであり、自殺と同義とも言える。止めたくなる気持ちも理解できます。ヘレナにインディを連れ帰る説得力のある動機があり、加えてインディが自分の意志で元の時代に帰る決意をしたなら満点だったんですけどね。この後の展開からして結果オーライだったとしても、殴って無理矢理送還は流石にすっきりしない。

 

そしてラスト。
別居中のマリオンがインディのもとを訪れ、『失われたアーク』でのやりとりをしながら関係を取り戻しハッピーエンドと。
やっぱりワンパン強制送還ではなく過去と向き合うターンは必要だったのではと思います。でも「今を大切に生きるエンド」は好きです。すっきりして終われるというのは何ものにも代えがたい。
と思ったら帽子をバシィと取ってバーンと終わり!!!
ごめんさっきのは嘘です!やっぱ「物語は終わるけどキャラクター達の冒険はまだまだ続くエンド」こそ至高!!!!うおおおおおおおおおおおおこれだよこれぇ!!!!!っつってインディー・ジョーンズのマーチが流れる中めっちゃいい気分で観終わりました。

キャラクター

インディアナ・ジョーンズ
我らがインディ・ジョーンズ
過去の栄光は面影も無く、過去に囚われ、かつての覇気も何もないすっかり枯れた老人となってしまった様子はまさに今作そのものを象徴していたと思う。
かつての活力を取り戻して奔走する姿は熱くなるものがありましたが、80歳のハリソン・フォードがアクション頑張るのは心配になるので頭脳面での活躍をメインにしてほしかった。
正直言って過去作のようなインディ感はあまり感じられませんでした。面白い皮肉や無茶ぶりみたいなのもありませんでしたし、インディの背景の重さとリアルな老体のコンボで哀愁が強すぎた。でも最後に帽子を取るところで過去から抜け出せた、本来の彼が帰ってきたということなのかなと思っています。


ヘレナ・ショー
考古学に造詣の深い相棒兼ヒロインと思いきやヤベェ奴。
遺物を売り捌こうとしたりギャング相手に結婚詐欺して金をせしめたりと普通に悪人。
もう少し父親への想いとかアンティキティラへの執念みたいなものがあれば感情移入できたかもしれない。
インディをワンパンで沈めるパンチ力の持ち主。


ユルゲン・フォラー
私の大好きな俳優であるところのマッツ・ミケルセンです。
マッツが出ることを知らなかったのでいきなり出てきたときは
ママママママママママッツ!?マッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?
ってバグみたいな挙動起きちゃった。好きなら知っとけ。
とにかく今作の立役者です。画面に映るだけで絵になるという華の具現化。
マッツ・ミケルセンと言えば冷徹でカリスマ性のあるイメージですが、今作は色々なマッツが見ることができました。
イメージ通りのマッツかと思いきや妙に小者なマッツだったり、眼鏡で色気が増強されたマッツ、ショルダーバッグのベルトを握るあざとマッツ、焦りマッツ、グラサンマッツ、クイズに正解して嬉しマッツ、ダイナマイトで髪ボサボサマッツ、部下を見捨てマッツ、ナチス軍服マッツ、作戦中止マッツ、絶望マッツ。
そして最後に焼け爛れマッツ!こういうのもあるのか!
でもどうせインディ・ジョーンズの悪役ならもう少し面白い死に方をしてほしかった。


テディ
クソガキ枠。
インディ達が過去から戻るためだけに存在している。


バジル・ショー
ゾラ博士。


アルキメデス
今作の黒幕であり時空すら観測する大天才。
久々にまともな人物像のアルキメデス見ました。最後にアルキメデスを見たのが『Fate/EXTELLA』だったので。
でもこの御仁が「エウレカエウレカ!」って叫びながら全裸で町中走り回ると思うと何とも言えない気持ちになる。

その他雑な感想

序盤の暗い画面でのアクションが見づらすぎて「暗い画面でアクションシーンをするな高校校歌」を熱唱しそうになった。全ての映画は暗い画面でアクションしないでくれ頼む。


マッツ・ミケルセンともなれば列車の速度で顔面に障害物が激突しようと傷跡無く生還できる。こ、これが北欧の至宝……。


アンティキティラ(島の機械)を作品で扱ってるのシンフォギア以外で初めて見たかもしれない。


ギャングの人、カーチェイス始まってからは「ヘレナー!」しか叫んでなかったしちょっと泣きそうな顔してたのでインディとは別の哀愁が漂ってた。


もしかして作中一番の謎はCIAの人達の存在意義では?


虫トラップのところでインディ・ジョーンズ度が急上昇してませんでした?もはやインディ・ジョーンズ=虫トラップみたいなところある。


欲を言えばもっと色々なマッツ・ミケルセンが見たかった。乗馬マッツ、潜水マッツ、虫トラップマッツ、メタンガスで苦しみマッツetc。

まとめ

栄枯盛衰とはこの事です。
かつてどれだけ評価され、名声を欲しいがままにしていたものも時代が移り変われば遺物となり果てる。それは作中のインディと作品自体、両方に言えることでした。
作品の雰囲気は昔の空気を感じられるものでしたが、それが映画としての面白さに繋がるとは限りません。映画にも時代にあった話運びや映像表現があります。特にアクションなんかは最先端そのものであり、インディ・ジョーンズが勝負できる土俵ではありません。正確には80歳の俳優を起用して魅せるジャンルではないということです。
老いたハリソン・フォードと時代に乗り遅れたインディ・ジョーンズのシンクロ具合は素晴らしいものでしたが、内容がかつてのインディ・ジョーンズに寄せようとしたのが良くなかったかなと思います。老人なら老人なりに知恵と経験で活路を切り開くという活躍ができるはずですし、アクションを見せたい場合はアクション専用のキャラを相棒に置くとかで満たせるはずです。いや素人が言う事なんて絶対に検討されているはずなので真面目な事をあれこれ言うのは無駄なんですけどね。
あとエンドクレジットで『フォードVSフェラーリ』のジェームズ・マンゴールドが監督だったことを知ったわけですが、それならもう少し緊張感のあるシーンを作れたのではないかと思わなくもない。やってたのは『馬VSバイク』と『普通自動車VS三輪自動車だったけど。


色々言いましたが、往年の名シリーズの終幕に立ち会えたこと、そして最後が私の好きな形で綺麗に終わったことで鑑賞後の感覚としては満足でしかありません。凄く良かったとは言えませんが、観て良かったと本心から思えています。これはきっとリアルタイムでしか得られない感覚なので、貴重な体験ができたと思います。
なんかマッツ・ミケルセンが格好良くてあざとくてドエロだったせいでマッツ映画になりかけてた気がするけど、主題はしっかりインディ・ジョーンズとなってます。これだけはしっかり伝えておきたい。


ハリソン・フォードも齢80にして体に鞭打ってアクションを一作撮り終えたのは普通に偉業ですよね。弊害としてトム・クルーズが更に張り切り始めた。
トム、頼むから死なないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マッツ・ミケルセン入門用映画として推薦します。