心象風景

なんですか、これ

ぼっち・ざ・ろっく! -真っ赤な空を見ただろうか-


BUMP OF CHICKEN「真っ赤な空を見ただろうか」

 

『ぼっち・ざ・ろっく!』の文字が見えるまで飛ばしていいです)
1950年代、黒人音楽を起源とした新しい音楽、ロックミュージックが誕生。ロックミュージックはエルヴィス・プレスリーの登場により爆発的にアメリカに広まっていく。続けて現れたチャック・ベリー、リトル・リチャードらにより、ロックの生み出す熱狂は更にエスカレートしていった。
1960年代、一度は落ち着きを見せたロックミュージックだったが、その静謐は彼らによって破られた。そう、ビートルズの出現、そして渡米である。ビートルズは瞬く間にアメリカを制覇。その偉業はイギリスにも伝わり、アメリカもイギリスも空前のロックブームを引き起こす。その中でローリング・ストーンズザ・フージミ・ヘンドリクスボブ・ディランのような、後に名を遺す偉大なアーティスト達が現れ、ロックブームは極限まで過熱していく。
1970年代、電子楽器の発展によりハードロック、パンクロックが生まれ、ロック黄金期を迎える。エアロスミスレッド・ツェッペリン、クイーンを代表とするアーティスト達により世界は音楽の熱に浮かされた。
その後、2000年にかけてニルヴァーナレッド・ホット・チリ・ペッパーズグリーン・デイ、オアシス、ボン・ジョヴィリンキン・パークなどのバンドが次々と台頭。ロックの嵐は様々な愛、思想、哲学、芸術を世界中に刻み込んだ。
そしてその流れは日本にも波及していく。1980年代から1990年代にかけて日本でバンドブームが巻き起こる。ブルー・ハーツ、サザンオールスターズらがブームに火をつけ、Mr.Children、B'z、ウルフルズ等が活躍、X JAPANGLAY、L'Arc~en~Cielなどのヴィジュアル系バンドも出現。日本においてもロックミュージックは音楽ジャンルとしてその立ち位置を確立させた。
2000年代に入り、かつての熱狂は失ったものの、依然として人気ロックバンドが現れ続ける。そしてロックの波は漫画やアニメ、映画などのサブカルチャーへと浸透。BECKNANAデトロイト・メタル・シティなどバンドをテーマとした作品が注目を集めた。
黒人音楽から若者の音楽へ、若者から大衆へ、大衆音楽から世界的な文化へ、そんな道を歩んできたロックミュージックは、サブカルチャーを通してついにオタクコンテンツへと影響を与える。そう、2009年に放送されたアニメ、『けいおん!』である。
アニメ『けいおん!』の放送を機に、オタク達の興味は軽音楽へと向けられた。楽器を始める者、軽音楽部やバンドサークルへ入る者、バンドを結成する者。かくして、軽音楽はオタクの一面として、オタクは軽音楽の一面として、両者の認識を阻んでいた壁は崩れ、その概念は融合を果たした。その後もけいおん!の後に続くようにバンドを題材としたアニメや漫画が次々と排出される。今では声優が実際にバンドを組んでライブを行うコンテンツまで存在する(一応、けいおん!も行っていたが)。
そんな現在、起源から脈々と受け継がれてきたロックの魂を宿す、新時代のコンテンツがここにある。
その名も、ぼっち・ざ・ろっく!

導入終わり。
マジでここまで長かった。
というわけで『ぼっち・ざ・ろっく!』の紹介記事です。お疲れさまでした。


BUMP OF CHICKEN「ロストマン」

作品紹介

f:id:Kokoro_ch:20210207160931j:plain

動画投稿サイトで評判のギタリスト、「ギターヒーロー」こと後藤ひとりはギターだけが心の拠り所の孤独な少女であった。ある日、ギタリストを探していた伊地知虹夏に出会い、彼女のバンド「結束バンド」に加入。バンドメンバーの山田リョウ、喜多郁代と共に、ひとりは新たな世界へと歩んでゆく。

はまじあき『ぼっち・ざ・ろっく!』1巻(芳文社)より

 

既刊2巻。
2021年2月25日に3巻が出るそうです。

 

ここではまず、各巻に触れる前に作品の魅力を伝えていこうと思います。
ポール・マッカートニーが「漫画を勧める時はまず最初に愛を歌うんだ」みたいな事を言ってた気がするので。言ってなかったかもしれない。

主人公が人間じゃない

はい。言葉通りの意味です。
顔が崩壊する、ツチノコに変化する、身体が粉のように崩れて死ぬ、そして普通に生き返る、爆発四散もする。
なんと、これらは荒唐無稽なギャグ描写ではなく、作中で実際に起きています。ボボボーボ・ボーボボみたいなものですね。
作者もこう言ってますし。

主人公の人間性が壊滅的に残念

友達がいない、頭が悪い、社会に尋常じゃない程の恐怖心を抱く、でも友達は欲しい、いざ動くと奇行に走る、承認欲求が強い等々。
そしてそんな主人公、後藤ひとり(あだ名はぼっち)の目標は高校退学です。社会不適合者の鑑みたいな存在だな。
あ、容姿は美少女らしいです。人外の身体を持つ者ですが。
それとギターも上手いし、いざという時は頼りになったりならなかったりします。
悪い子じゃないんです。ただひたすらに残念だけなんです。そこが魅力的なのです。

個性豊かな登場人物たち

終わりきった人間性に抗う孤独のギターヒーロー後藤ひとり
良い子でツッコミ役のドラム、伊地知虹夏(いじちにじか)
金遣いの荒さにより万年金欠、天性のヒモ気質、雑草や山菜が主食、まさにベースの擬人化。ヤバい奴No.2、山田リョウ
陽キャの皮を被った狂人。初対面からぼっちの扱いが酷い、何食わぬ顔で奇行に走ったりするなどまともな顔してどこかおかしいボーカル兼ギター、喜多郁代(きたいくよ)
彼女たちこそこの作品のメイン、結束バンドである。
結束バンドだけでもだいぶ濃い登場人物が揃っているのですが、サブキャラも負けていない。少ない登場回数で妙に印象を残していく父親やら、作中でほぼ酔っぱらっている女やら、14歳と言い張って接触してくる成人済みのフリーライターやら、異常にあくの強いモブやらが出てきます。醤油の原液でも飲まされてるのかな?
さて、彼女たちの苗字を見て何かに気付いたでしょうか。そう、実在のバンドのメンバーと全く同じ名字なのです。
結束バンドと同じく、4人組のロックバンド。
2000年代に若者から支持されたあのバンド。
有名アニメとのタイアップもしているバンドと言えば、そう

 

 

 

 


ASIAN KUNG-FU GENERATIONです!


ASIAN KUNG-FU GENERATION 『遥か彼方』


ぼっち・ざ・ろっく!がアニメ化した暁には是非ともタイアップしてほしい。
まんがタイムきらら原作アニメのOPでアジカンが流れるの観たいですよね。
観たくない?
観たいでしょ!?

凄まじくテンポが良い

まんがタイムきららMAX連載の漫画なので、例に漏れず4コマ漫画なのですが、非常にテンポが良い
4コマ漫画でテンポを良くするのって難しいと思うんですよね。コマ数は決められていますし、一行ごとにオチをつけなきゃいけない。一ページに小さいコマがずらっと並んで目が疲れるとか、まぁ意外と読むのに時間がかかると思います。日常系が多いので起伏の少ない話が続いたりするのも、場合によっては退屈になったりするかもしれません。
ですが、ぼっち・ざ・ろっく!は4コマ漫画でありながら、自然とすらすら読めてしまうような流れで構築されています。
いやこの漫画は割と4コマ縛りを破ってるところありますが、それでもテンポの良さは随一です。
短くも特徴的な台詞を用いたり、ビジュアル的に分かりやすいギャグを入れたり、時には4コマ縛りを破って構図重視のつくりにしたりと様々な工夫が伺えます。
正直、初めて読んだ時は衝撃を受けました。4コマ漫画をここまで心地良く読むことができるのかと。
4コマ漫画の新時代を、この漫画は切り拓いてくれるかもしれません。

決めるところは決める

この漫画は上がってくる、そう確信したのもこれがあるからです。
基本ギャグ調で進んでいくこのぼっち・ざ・ろっく!ですが、縦軸の話があり、ストーリーとしての山場があります。そこに普段のコミカルな雰囲気が介在する余地はなく、シリアスが空気を支配します。
そんなシリアスをぶち破るのは我らがギターヒーロー、主人公・後藤ひとりが魅せるロックの真骨頂。
ここぞというところで決めるぼっちは本当に格好良い。顔面崩壊発狂していた姿とか完全に記憶から消し飛びますね。これは男女問わず学校中の人気者でラインの友達数は1000人越え彼氏はバスケ部のエースの超リア充女子に違いない。
フレディ・マーキュリーも天国でShe's a Guiter Queenて言って拍手してる。


Acacia

各巻の感想

1巻

ひたすらギターの練習をしていたら友達一人できず中学生活が終わっていた後藤ひとり高校デビューに失敗してぼっち街道まっしぐらだった。公園で途方に暮れていたところ、他校の生徒である伊地知虹夏にギターのヘルプを頼まれ、結束バンドの一員として出演する事に。ベースの山田リョウもいます。
いやもう開幕からぼっちのクセが強い。ラインスタンプ用みたいな発言を連発してくるし、ゴミ箱に入るし、ダンボール被って出演するし。もはや一周回って輝いてるよ。
段々奇行が目立ってきたぼっちはボーカルギター調達のために同級生で陽の者である喜多郁代接触。初対面のぼっちを探す時ゴミ箱を開ける郁代。この時点でおかしい女である事が分かる。
郁代が以前、結束バンドから逃げたボーカルギターだと判明。なんやかんやあって元の鞘に収まる。この辺りからぼっちの顔面崩壊芸が始まる。この時はまだ漫画的な表現だと思ってた。
その後は郁代のギター練習に付き合ったり、アー写を撮ったり、作詞したり、ライブのオーディションを受けたりします。この間、絶えずぼっちの株は下がり続けます。ついでに山田リョウの株も下がりました
そしてついにぼっちに試練が降りかかります。それはなんと、ライブのチケットを5枚売ること。友達がいない人間になんて酷な事させるんだ。昨今のジャンプ漫画くらい鬼畜な展開だろこれ。
路地裏で途方に暮れるぼっちはそこである人物に絡まれました。酔っぱらいのヤバい奴登場です。流れで路上ライブをさせられ、ファンもできて、チケットも売れた。こうして少し成長したぼっちは仲間に信頼されていなかった。結束しろ。
あとはぼっちの家に初めて友達が来る話とか、ライブとか打ち上げとかあります。最後に判明したぼっちの顔の真実には、13日の金曜日におけるジェイソンの正体がジェイソンじゃなかった時並の衝撃を受けましたね。

記念すべき1巻です。当時、話題になっていたので買いました。
ギャグのキレの良さ、テンポの良さ、キャラの可愛さ、演出の上手さ、そのあたりに魅了されて久々に4コマ漫画で惚れこみました。
褒めるべき点は上で語ったので割愛。とにかく良い漫画と出会えたという事です。


BUMP OF CHICKEN「ギルド」

2巻
ぼっち・ざ・ろっく! (2) (まんがタイムKRコミックス)

ぼっち・ざ・ろっく! (2) (まんがタイムKRコミックス)

 

夏休みが終わる事に絶望して死にかけているぼっち、そんな場面から始まる2巻。
なんとこの巻には山場が二つあります。一つは文化祭ライブ、もう一つはぽいずん♥やみ襲来
まず文化祭に向けてぼっちが死にます。郁代はぼっちを棺桶に入れて看取ります。
続いて迫る中間テスト。赤点回避のために勉強会を行う結束バンド。郁代はモールス信号でドラムの才能が開花。リョウは東大受験を目指すことに。
文化祭ではぼっちがメイドに扮装、美少女ぶりを発揮する。二行くらい。
そして文化祭ライブが始まるが、なんとぼっちにトラブル発生。ここの郁代が格好いい。1巻ではズタボロだったギターの腕を思い返すと、中々感慨深いものがあります。まだ2巻なのに。当然、ここで終わるぼっちではありませんでしたね。超絶テクを披露して場を持ち直しました。そして伝説へ……。
この時点でだいぶ満足したのにまだ半分くらいページが残っていたので戦慄しました。残りのページぼっちのヤバい顔で埋め尽くされてたりしない?
ギターを買いなおしたり、マイニューギアしたり、ぽいずん♥やみが登場したりします。
いやマジでキツいです、ぽいずん♥やみ。読んでて「きっつ!!!!」って声出ましたからね。むしろ出なかった人いないんじゃないですか?出てなかったらそれはそれで凄いですね、趣味が。
まぁでも、ぽいずん♥やみが指摘したことは的を射ていて、結束バンドが次のステージへ進むために必要な事だったと思います。そろそろ結束できたか?

2巻になってもテンポの良さとギャグのキレは健在。本物ですね。
ぼっちは多少成長した感があり、結束バンドも仲を深め、徐々に話の広がりを見せました。次はどうなるんでしょうね。あ、私は本誌読んでるので知っていますけど。
ちなみにこの巻で何より好きなのは、ぼっちが承認欲求に負けて20万円をドブに捨てる話です。救いようのないでしたね。いや100%ぼっちが悪いので救えないのはぼっちの人間性だけですが。好きすぎて月に一回は読んでる。


BUMP OF CHICKEN『車輪の唄』

まとめ

この漫画は、私の中で停滞していた4コマ漫画というジャンルに対して新たなる境地を示してくれました。
そのおかげか、2016年あたりからやめていたまんがタイムきららMAXの購読を再開するに至り、今ではサブスクでまんがタイムきらら各誌を毎月読んでいます(BOOK WALKERの読み放題サービスで読めます)。
そのくらいにはハマったと思います。4コマ漫画でここまで刺さったのはかなり久々かもしれない。
あと何気に好きなのが、扉絵が邦ロックバンドのMVのワンシーンをオマージュした絵になっているところだったりします。アジカン『リライト』サカナクション新宝島UNISON SQUARE GARDENシュガーソングとビターステップBUMP OF CHICKEN『天体観測』あたりは有名なので気付いた人も多いのではないでしょうか。
ちなみに、最近は洋ロックのCDジャケットをオマージュもしているようで、3巻のゲーマーズ特典はニルヴァーナNEVERMINDでした。

人気を踏まえると、アニメ化はもうほぼ確定と見て間違いないでしょう。今年か遅くても来年には来そうです。アジカンのOP、楽しみですね。
アニメ化さえすれば、結束バンドはたちまち日本中、いや世界中に広まるでしょう。そうなれば武道館などただの通過点、ゆくゆくは世界ツアー、そしてローリングストーンへの掲載、ウォール・ストリート・ジャーナルの一面。彼女たちの輝かしい未来はすぐそこで待っている。そして私たちは古参面して「昔の方が味があった」とか呟きながら嘆くのだ。


BUMP OF CHICKEN「Aurora」

 

 

 

 

 

 

 

BUMP OF CHICKENが好きです。