心象風景

なんですか、これ

安達としまむら -ガールズラブにおける一つの極点-

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安達としまむらアニメ、終わりましたね。
原作ファンとして思うところもありましたが、既知の内容にも関わらず最後まで楽しめました。
安達の想いの変遷、繊細さ、危うさ、奇行を、そしてしまむらの優しさ、軽薄な心、ゆるさ、天然っぷりを。
その他の登場人物も含め、各キャラクターの魅力が存分に伝わってくる素敵な作品だったと思います。
ただ、未だ想いの届かないところで一区切りというのはラブストーリーとしてはなんとももどかしい。
安達としまむら』の物語が最大の山場を迎えるのはアニメ化範囲より少し後の話
二期があればいいのですが、そんなこと今の私達には明日に託した夢幻でしかありません。二期やってくれればゲーム・オブ・スローンズくらい大ヒットすると思うんですけどね。
でもやっぱり全米で大ヒットするにはまだ時間がかかりそうかな。
なので、
「先の話が気になるけど小説読めないよーーーーーーー」
「前に読んだけどもう一度読み返すの怠いよおおおおおおおおおおお」
などと甘ったれた悲鳴を発する人達へ、一ファンとして『安達としまむら』の魅力をこの場に記しておこうと思います。
いつかアメリカのファミリー達が、ポップコーン片手に『安達としまむら』アニメを観賞する未来を信じて。

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作品紹介

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安達としまむらとは、氷のようにクールな女の子「安達」とゆるふわガールしまむらが織りなす女子高生の日常系ガールズラブコメディです。作者がラブコメと言っていたのでラブコメらしいです。
レーベルとしてはライトノベルですが、作者・入間人間の書く心理描写や情景描写は、繊細かつ抒情的で、非常に文学的な印象を受けます。
しまむらに心を開き特別な感情を抱いていく安達に対し、安達のことは一人の友人としてそれなりに接しているしまむら。二人の関係はどのように変化していくのでしょう。
といった感じですかね。

第1話 制服ピンポン

第1話 制服ピンポン

  • 発売日: 2020/10/13
  • メディア: Prime Video
 

原作小説

ここでは既刊の原作に触れていきます。
アニメでは描写しきれない感情やモノローグ、カットされたエピソードなどがあり、ストーリーは同じでも感じるものは別物になると思います。
特に、内面の描写は文学的かつ細やかに書かれており、読めばアニメとはまた違った印象を抱くことでしょう。
気になる人は是非読んでみることをおススメします。いや読んで、面白いから。
当然、ネタバレも含むので注意してね。

1巻
安達としまむら (電撃文庫)

安達としまむら (電撃文庫)

 

体育館の卓球場、そこで授業をサボる二人の女子高生、安達としまむら
何も無い退屈な日常の中で、安達はしまむらに特別な感情を抱くようになる。
しまむらと友情を深めるために安達はアプローチを重ねるが、全てが暴投。どうなる安達。
みたいな話。

 

始まりの1巻。
ゆるゆりみたいな作品書いてくださいと言われ、誤って『ゆりゆり』を参考にした入間人間が生み出した作品。誕生経緯が面白すぎる。
読み切り企画だったこともあり、初期はキャラが2巻以降と比べてだいぶ異なります。
安達は冷淡かつ口調もくだけていて挙動不審の欠片も無いクール美人。しまむらのアプローチも軽く流す。いや誰だよこいつ。
対するしまむらは…………今とあまり変わらない気がする。
強いて言うならしまむらの方が強く安達を意識していたところか(しまむら視点での開始だったせいかもしれないけど)。
同級生の日野永藤、自称宇宙人のヤシロしまむらも登場しますね。
日野と永藤は少し普通っぽかったと思います。ヤシロは今も昔も変わらず。しまむら妹はちょい役なので変わったところは無し。
よく見ると主に初期安達だけですね。今後とキャラが180度くらい違うの。
まぁあれですね、初期安達終了までの流れは今見ると結構面白いです。興味深いという意味で。
開始時点ではしまむらに興味無さそうな安達が、「しまむらに自分以外の友人がいる」という情報を得た瞬間から様子が変わっていくあたりとか、独占欲の芽生え方が丁寧です。
そして何故かしまむらとキスをする夢を見て初期安達終了。何度見ても唐突すぎて笑う。
でも実際こんなものなんでしょうね、特別な感情の抱き始めなんて。知らんけど。
アプローチも初っ端から中々攻めてます。しまむらの脚の間に座ったり、ヤシロに嫉妬して4人席の片側に3人で座ったり、しまむらに頭を撫でてもらったり。なんか最終的に空き缶持って帰って飾ってるし。
今後を踏まえても色々とばしててヤベエなこの女……。
こんなのアニメ化されたら怖くて泣いちゃうよ私。

 

余談ですが、カラオケのエピソードでデュエットした曲は原作だとスピッ○のロ○ンソンでした。
いいですよねロビ○ソン。クソ重ラブソング感が安達にピッタリ。

2巻
安達としまむら2 (電撃文庫)

安達としまむら2 (電撃文庫)

 

ジムで安達母と対決するしまむら
腹筋ができる安達。
ヤシロとしまむら妹の邂逅。
クリスマスを意識して本格的にコミュニケーション能力が機能不全を起こし始める安達。
イチャつく日野と永藤。
しまむらの胸を想像する安達。

 

平穏の2巻。
本当に平穏ですか?比較的平穏だと思います。
この巻ではしまむらの人間関係に対する希薄さが浮き彫りになります。
安達に対しても興味が薄いです。今だけ一緒にいる相手、みたいな感覚で安達と友情を深めています。こわ。
ただ、しまむら安達母にサウナ対決を挑むところでは安達のために勝負を挑んでいます。
興味の薄さは本当だと思いますが、その実さらに奥の本心はどうなんでしょうね。しまむらという人間の面白いところです。
でもサウナ勝負はマジで危ないからやめてね。実際たまに倒れた人とか聞くし。
そしてクリスマス、安達がしまむらとクリスマスデートしたすぎてどんどん挙動不審になっていきます。実家のような安心感。
と言ってもまだ安達もそこまで重くなくて、しまむらと仲を深めたいと言ってもこの時点ではいつか終わる関係性として覚悟しています。意外と大人しくてびっくりする。
対比するようにデコチューでイチャつき始める日野と永藤。もう絆の段階が10段くらい違う。
出会うヤシロとしまむら妹。今作の癒しコンビ。
そういえば1巻で百合に挟まる幼女みたいな登場をしたヤシロですが、実は大切な役割がありまして、一人だけSF存在なのも意味があります。まぁ判明するのはもっと後の方ですけど。
話を戻して、安達について。
安達はしまむらに対して「好き」という感情を抱いていることを自覚しますが、それが恋だとは思っていません。あくまでも「特別」を求めているだけだと理解しているようです。
いや、それはいいんですけど、何でしまむらの胸を想像することでその感情の正体を確かめようとしてるの。しかも最終的に墓穴を掘るのでなんだろう、この子のこと応援してやらなきゃなという気持ちが芽生えました。

3巻
安達としまむら3 (電撃文庫)

安達としまむら3 (電撃文庫)

 

バレンタイン、奔走する安達、ライバル登場。

 

歓喜の3巻。
出たな樽見
アニメで声聞いた時思わず笑っちゃったよ。まさか『やがて君になる』で負けヒロインに声を当てた茅野愛衣さんがCVとは。
入間人間先生がやがて君になるのスピンオフ小説を書いているという事を踏まえると、何か含むところを疑ってしまうね。
この巻ではバレンタインを軸とした話が展開されます。
テレビの占いに影響されて毎日違う行動を試みる安達は変なようでどこか愛らしい。
まぁあと、この巻あたりかな。アニメではさらっと描写されたような場面の心理描写が結構コワ面白いです。主にしまむらの。
笑顔の裏で安達の誘いを断りたがってたり、過去の友情に墓地を見出したり、いろいろ見えます。
アニメでは安達視点だけだったけど、原作ではしまむら視点でも展開されているんですよね、ここ。
たぶん二度描写するとくどくなるからカットしたんしょう。この辺は小説ならではですね。
で、バレンタイン当日というか、前日の樽見と出掛けたところからの展開が気持ち良い。
樽見との関係に気まずさを覚えるしまむら、安達とのやり取りに安心感を覚えるしまむら
曖昧にやり過ごしてきた自分を省みて一歩踏み出し樽見との友情を取り戻すしまむらさん。
安達へバレンタイン専用メッセージを用意するしまむらさん。
しまむらさんかっけぇよ……名前も抱月とかいう強そうな語感放ってるし。
感極まって抱き着く安達も良かったね。頑張りが報われた感あって私も嬉しくなったよ。実質的に安達は空回りしてただけですが。
関係性は特に進展したわけではありませんが、しまむらの心がほんの少しだけ前に進んだ、そんな気がします。
安達もにっこにこ、しまむらも割とにこにこで終わり。後腐れ無く良い感じにハッピーエンド。嬉しくて飛び跳ねる安達はかわいい。
正直アニメ化範囲はここまでかと思ってた。

4巻
安達としまむら4 (電撃文庫)

安達としまむら4 (電撃文庫)

  • 作者:入間 人間
  • 発売日: 2015/05/09
  • メディア: 文庫
 

安達桜の過去編、クラス替え、風呂でいちゃつく日野と永藤、お泊りイベント

 

膠着の4巻。
この中学時代の安達エピソードがめちゃくちゃ好きです。なのでアニメでカットされたのが残念でした。
図書委員で一緒になった同じクラスの女の子視点から描かれる安達です。
孤高の一匹狼、冷淡な美人、どこか遠くにいるような儚さ、付いたあだ名が『氷の彫像』。……誰ですか。
しかしこの同級生の女の子が中々どうしてヤバい女で、全く話したことの無い安達を「桜さん」と名前で呼んだり、
ひたすら横顔を眺めて過ごし、内心は友達になりたいと願っているという変な子でした。
中学時代の安達はこういう夢女みたいなのを量産していたんですかね。怖いね。
そして過去から繰り出される現在のでろんでろんに溶けた安達は爆笑ものなので是非実際に読んで笑ってほしい。
本編はクラス替えでまた一緒になれた安達としまむらからスタート。
ところがしまむらが他のクラスメイトに取られてしまい、二人きりを望んでいる安達は一人殻に閉じこもってしまう。
散々うじうじした挙句、胡散臭い占い師に捕まって自己啓発させられた結果復活を果たすのは一周回っておめでとうといった感じだった。
それにしても、仲良くなろうと誘ってくれたクラスメイトの名前をまともに覚えず、会話もなあなあに流しながら、安達に救いの手も差し伸べないというしまむらの様子は本当に軽薄な人間であることを思い知らせてくれる。
それでいて安達が復活したら嬉しそうにするので、私はもうしまむらさんに恐れおののくしかありませんでした。
そんな事を余所に、ナチュラルにお泊り&一緒にお風呂を決行している日野と永藤。こいつらだけ人生のステージが違う
なんかインスピレーションを得てしまむらにお泊りを漕ぎつけた安達。いきなり連泊なのが強い。承諾するしまむら一家も強い。
安達が一旦足を止めたため進展は特に無し。一応お揃いのヘアピンを貰った。いや傍から見たらバカップルでしょこれ。
合間にしまむら樽見が遊ぶ話とか挟まれますが、こちらも特に変化なし。お揃いのキーホルダーを買ったくらい。安達的には大問題か。
アニメ化範囲はここまで。

5巻
安達としまむら5 (電撃文庫)

安達としまむら5 (電撃文庫)

 

夏休みに突入し、しまむらとやりたい事を書き記す安達。
その間に樽見しまむらとの距離を詰めていく。
そんな中、安達は偶然、樽見と共にお祭りを楽しむしまむらの姿を目にしてしまい……。

 

激情の5巻。
作中最大の盛り上がりを見せる夏休み編の前半です。
「夏休み中にしまむらとやりたいことリスト」を作るが、バイトと重なったり日和ったりで中々実行できない安達。これは映画最高の人生の見つけ方(The Bucket List)』の「棺桶に入るまでにやりたいことリスト」を彷彿とさせますね。安達、死ぬのか?

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対して、速攻でしまむらに祭りの約束を取り付ける樽見。それだけに飽き足らずしまむらをモデルに絵を描きたいと誘う。どうやら冬に再会してからずっと昔の写真を見て絵の練習をしていたらしい。ここで「ん?この女、もしかしてヤバい奴では?」と瞬時に警戒態勢に入るのは読者の誰もが通る道。
そして祭りの日、バイトの出店で祭りに来ていた安達は見つけてしまう。妹とヤシロ、そして知らない女の子と夏祭りを楽しむしまむらの姿を。気になってしまむらに電話をかける安達だが、堪えていたものが暴発する。
無事に死にましたね。安達の精神が。
有名な伝説のシーンです。まぁ実際読むと重い長台詞よりもそれをばっさり切るしまむらの刃の方が怖いです。子供の頃に観た呪怨よりも怖いかもしれん。
でも小説のページが重くなる感覚というのはそれだけ緊迫感のある文章が書かれているという事でもあり、質の高いテキストである事の証左と言えます。良い事なのです。
数日間、廃人と化していた安達は突如蘇り、棺桶リストを実行するために動き出す。この時の、何事も無かったかのように対応するしまむらが本当に怖い。本当に人間かと疑うレベルでこわい。遊星から来た物体なんちゃらなのではないかと猜疑心を抱くレベル。いやそれはヤシロの役回りなのですが。
このあたりの人の心が宿っているのか不安なしまむらさんの胸中は次巻で明かされます。それまでは戦々恐々としながら読む羽目になります。本当に恋愛小説かこれ?
合間に挟まれる日野と永藤が癒しですね。はたして安達としまむらがこのステージに到達する日はやって来るのでしょうか。
その後はなんやかんやあってプールへ行ったり、お泊りをしたり、しまむら妹とお風呂に入ったり、日野・永藤も交えて4人で遊んだりします。リストの消化は順調です。
その中でしまむら「安達はいろいろな人と関わった方がいい」という旨の助言を受けます。不安定な安達を心配してのことらしいです。この時の安達は弱々しいというか痛々しいというか、どこか自分を騙して行動しているように見えて辛いです。
そんなこんなでラストシーン。
しまむらの言う通りになんとか振舞っていた安達が、これは違うと、自分ではないと気付きます。しまむらの事が大好きだから自分にはこれが全てだからと、懸命に走り出す安達。
要はあれです。ラブストーリー定番の恋心を自覚する瞬間というやつです。
5巻は例の長台詞ばかり注目されますが、私はこのシーンが一番好きです。というか『安達としまむら』通してトップクラスに好きかもしれません。良いよね、頑張る女の子。

6巻
安達としまむら6 (電撃文庫)

安達としまむら6 (電撃文庫)

 

田舎で『友達』と触れ合いセンチメンタルになるしまむら
復活した途端、突拍子のない行動を連発する安達。
二人の想いが今、交わる。
かもしれない。

 

変転の6巻。
お盆休み、家族と田舎へ行くしまむら。古い『友達』や祖母との交流の中で、自身の心の内と向き合うことになります。
しまむら、ちゃんと人間だったね。
『友達』とは、子供の頃から田舎へ行く度に遊んでいた老犬のゴンです。犬かわいいもんね。キアヌ・リーヴスも後ろで頷いてるよ。

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会うたびに衰弱していくゴンに、胸を渦巻く暗い気持ちの正体が分からない。いや、気付かないふりをしています。
そしてここでしまむらのルーツも明かされます。しまむらはどうやら、中学時代にトゲを振り撒き、擦り減った結果、人間関係に偏りを持たないようになったみたいです。要は人付き合いに疲れたんでしょうね。まだ高校生なのに。
ゴンを通じて、安達と樽見への関わり方を思い返し、自身の中にある偏りを自覚していきます。どの方向に偏っていたのでしょう。言うまでも無いですね。
現実と向き合い、友情の偏りを認識し、祖母の優しさに触れて、そうして帰ってきたしまむらは少し成長していました。
対してしまむらが帰還したら即座に水着で特攻を仕掛ける安達。情緒も何もねえな。
ちょっとしたハプニングを通して、不器用にも走り続ける安達から好意を受け取るしまむら。ちなみに安達は誤爆したことに気付いていない(ここ重要)。
安達からの好意に気付いてからのしまむらは、完全に安達に傾きます。安達の悲しむ顔を見たくないがために樽見の誘いをきっぱりと断り、安達の喜ぶ顔が見たくて浴衣を出す。ラブなるコメディしてますね。
ここからがこの作品の最高潮。ラブコメの最高潮と言ったらあれです。あれ。
この辺は実際に読んでもらいたいですね。
どこかでピースが欠けていたら、順番が違っていたら辿り着けなかった結末。
甘美な雰囲気、明媚な情景、感情の錯綜、疾走感、何もかも素晴らしいです。血も飛び散りますし
読み終わったらとりあえず拍手してた。

7巻
安達としまむら7 (電撃文庫)

安達としまむら7 (電撃文庫)

  • 作者:入間 人間
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: 文庫
 

付き合うこととなった安達としまむら

 

祝福の7巻。
実は、当時(2016年)何故か6巻で完結した気になっていて、8巻発売&アニメ化決定(2019年5月)までの間続きが出ていることに気付きませんでした。2019年の11月頃に8巻と合わせて読んだので実に3年半ぶりの『安達としまむら』摂取となりました。ほんと何で完結したと思ってたんだ……。
開幕から世界の全てに祝福されている気分で目覚める安達に笑った。
落ち着くために辞書を引き始める安達。夢じゃないか確かめるために早朝にも拘らず電話をかける安達。もう何もかもが面白い。完全に有頂天である。
そして、明日の自分に面倒を投げて告白を受け入れた昨日のしまむらは、今日のしまむらになっていた。
両者ともに恋人としての接し方が分からず、悩みに悩みます。ラブコメしてるね。百合作品では結構珍しんじゃないですか。
お弁当を作ったり、デートしたり、デコチューしたりブーメラン投げたり。甘々ですね。甘すぎて砂糖読んでるのかと思った
ただ安達の愛が重すぎるという問題もありました。日野・永藤と会話しただけで浮気判定という驚きの厳しさ。
お互いに好意の差異は実感しており、それが不穏にも感じる。安達はしまむらだけいればいいけど、しまむらは多数の中で安達といたい。恋人になってもどこかで瓦解してしまいそうな危うい関係で、見ていて不安です。
祝福とは必ずしも良い性質のものとは限らないと蒼穹のファフナーで学びました。どうなるんでしょうね。
そんな一冊でした。
あとは安達としまむらの運命についても触れられました。
卓球場で会わなかった世界、三日後に世界が滅びる世界、生まれた星の違う世界などifの世界が描かれ、そのどの世界でも二人は出会うというものです。
まさに「運命」ですね

8巻
安達としまむら8 (電撃文庫)

安達としまむら8 (電撃文庫)

  • 作者:入間 人間
  • 発売日: 2019/05/10
  • メディア: 文庫
 

二人で海外旅行へ出かける10年後の安達としまむら
しまむらは呼応するようにかつての修学旅行を思い出す。

 

旅路の8巻。
完結では無いですがエピローグが描かれました。
いきなり10年後です。社会人です。同棲しています。何が起きているのか理解が追いつきません。キングクリムゾンとかいうレベルではないです。
この先何が起きても安達としまむらが、少なくとも10年先は一緒にいるという事が確定しました。実質最終回らしいです。何を言っているのか分かりません
なんか海外旅行に行くらしく、それはいつかの修学旅行での約束を果たすためらしいです。
そんなわけで過去へ戻り、修学旅行編が始まりました。
修学旅行の準備段階では安達が面倒くさい彼女ムーブを思う存分披露しますが、修学旅行開始からはしまむら視点のみで進行していきます。
今回特徴的なのが、しまむらが安達の挙動を見て事あるごとに「かわいい」と感じているところです。これさらっと書かれてますけど結構重要な心理的変化だと思いまして。今までのしまむらなら「面白い」とか「嫌いじゃない」で済ましていたと思うんですよ。それが可愛いだの頬が緩むだの愛おしいだの……なんなの?
まぁ恋人という関係性を通じて心境の変化があったんでしょうね。相変わらず自覚して無いけど。
さて、問題の浴場ならぬ欲情シーン。別にしまむらの胸を見たいわけじゃないとか言ってた安達さんはどこへ消えた。しまむらの裸ガン見してて笑った。しまむらもこっそり見てねと言って身体をさらけ出す始末。修学旅行で何やってるんだこいつら
そんなこんなでイチャイチャし続けた結果、同じ班のパンチョに付き合ってる事がバレます。いや白状したと言うのが正しいけど。
このパンチョがまた良いキャラで、別に茶化すわけではなく応援してくれるんですよね。
そしてパンチョとの交流の中で、安達が自分にとってどういう存在なのかを気付かされます。むしろ今まで自覚してなかったんだ、となった。しまむらも相当面倒な女だと思う。
ついでにしまむらの容姿について安達と樽見以外から初めて言及されました。可愛い方とのことです。
旅行は続き、しまむらは濃霧の中で安達を見失い、疑似的に安達のいない世界を体験することになります。先が見えず身動きのとれない窮屈な世界。そんな中で安達と感動の再会。数分ぶりですが。
安達といればどこまでも一緒に歩いていける、そんな関係性を見つけたしまむら二人の関係性はここに盤石の答えを得ました
その後はホテルでいちゃついて修学旅行終了
時間は10年後に戻り……戻り?初めての二人きりの海外旅行を終えた大人な安達としまむら
時を経て確かな関係を築いた二人。じゃあ次はこの先の10年を見ていこうかと、二人は歩く。マジで最終回じゃん。でもまだ続くらしいです。
この巻をもって安達としまむらの間に渦巻いていた不安定な部分は払拭されました。割と、いやもんのすごく予想外です。
このあと何やるんでしょうね。樽見との決着は残っていますがもう樽見の入る隙は1ミクロンも空いていないと思います。
あとヤシロの役割が明確になりましたね。
ヤシロは言わば安達としまむらの観測者と言ったところでしょうか。
前巻で描写された数多の世界で、二人は必ず出会うということの証明ができる唯一の存在です。なぜなら、ヤシロは時間にも空間にもとらわれない超常の存在だから。言ってしまえばメタキャラ、入間人間の代弁者、そんなところだと思います。

 

9巻
安達としまむら9 (電撃文庫)

安達としまむら9 (電撃文庫)

  • 作者:入間 人間
  • 発売日: 2020/10/10
  • メディア: 文庫
 

二度目のクリスマス、日野と永藤オリジン、安達と島村。
そんな一冊。

 

幕間の9巻。
半分くらいは日野と永藤の起源エピソードで埋まっています。
短編集的と言いますか、たぶんアニメ化記念で出したものなんでしょうね。
正直8巻の続きを期待して読んだら肩透かしをくらいました。面白かったのでいいですけど。
安達としまむら的にはクリスマス二年目です。特筆するような出来事は起きませんが、二人の間にある好意の差異のすり合わせを行いました。しまむらは安達がいなくても生きていけるけど、でも今の関係は大切で。だから誤魔化さずに好きと伝える。こういうの大事だよね。
あとしまむらの中学時代が明かされました。今とは似ても似つかない刺々しさ。こういうところを見ると、根っこは安達と同じなのかもしれない。
そしてもう一つの安達と島村。安達母と島村母が邂逅を果たします。両者とも別の意味で大人げなくて面白いです。洋画でよく見るバディものの雰囲気を感じましたね。
メインとなる日野と永藤。二人の出会いから絆が固まるまでの話。
これなんですが、予想以上に重くて儚くて、ロマンチックでした
家柄を疎ましく思う日野が思春期特有の反抗心で家出を決行。永藤とお手伝いの江目さん同伴で。
その最中、母親と江目さんの関係を聞き、どこまでもついてくる永藤を見て、父親の心境を知ることで一つの答えに到達する。
永藤をぞんざいに扱ってる割に日野が抱く心情はかなり重かったね。熟年カップルの歴史を垣間見た。

安達について

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初期は超クール、他人に興味無し、それどころか世の中の全てに興味が無い氷結系美少女
しまむらに心の隙間をあけたが最後、閉じ込めていた未成熟の情緒は荒ぶり、挙動不審爆走少女へと変化する。
そんな安達桜という人間ですが、本質は人よりも少し早く現実と向き合ってしまっただけの女の子なのだと思います。
親からの愛情を満足に受け取れず、親しい友人もおらず、情緒が未完成のままに精神だけ成長してしまった結果、出来上がったのが初期の安達。
人よりも善意や悪意に敏感で、現実の非情さを理解し、だからこそ早々に心を塗り固めてしまった。心を閉じるのがもう少し遅ければ人並みに情緒を育めていたかもしれません。
しまむらと触れ合うことで独占欲を抱いたり、特別な関係を欲するようになりますが、こういう気持ちって誰もが抱くものだと思いまして。本来、複数の人間と関わり分散・緩和されるはずの感情がしまむら一人に集中した結果がしまむらへの好意なのでしょう。
童貞とも揶揄されますが、想いに振り回される姿は恋する乙女そのものだと思います。いや恋する乙女で間違いないんですけど。
性別問わず、恋に奔走する人間というのは言葉に詰まったり、空回りしたりするものなのではないでしょうか。そんな中でもめげず曲がらず一直線に走り続けるのが安達の魅力なのだと思います。
彼女のひたむきな爆走ぶりに胸を打たれ心を動かされるからこそ、私たちは安達を応援してしまうのでしょう。
あとなんか出っ張りが少ない体型らしいですけど胸はしまむらより大きいっぽい。

しまむらについて

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ゆるふわ、クール、ダウナー、達観、掴めそうでその実何が本質なのか分からない異様な人間、それが島村抱月
この難しいキャラを演じきった伊藤みっくは見事だった。
人畜無害の普通そうな少女に見えて人間への興味がかなり希薄とかいう怖い人間性の持ち主。
中学時代はそれなりに思春期をしていたらしく、世の中の全てに苛立っていたらしい。そうして擦り減り続けて出来上がったのが人間関係を平坦にして生きる女、しまむら
人付き合いに対する防御反応の末路として考えると、安達と本質は同じなのかもしれません。
ただしまむらの方が軽薄さは断然上で、基本的に友情はどこかで終わるものだと思って過ごしています。クラス替え後にお昼を食べるようになったクラスメイトの名前を全く覚えていないし、話もほとんど流しているという驚きの興味の無さ。
そんなしまむらでも、過去に対する哀愁や未来への不安は抱いているようで、そのあたりを安達との関係性を通じて乗り越えようと悩んだりもしています。人間らしい一面もあるようで良かったです。
ここまで無関心人間と評しておいてあれですが、安達に対してはどう見ても最初から興味津々です。信頼できない語り手というほどでも無いですが、しまむらは自分の気持ちを誤魔化している傾向があります。どう見ても好きなのに無関心みたいなふりをモノローグで繰り出してくるあたりが非常に厄介です。はーーーーー面倒くさ。
あと割とイタズラ好きみたいで、安達が慌てふためく様子を見るためにわざと意地悪な言動をとったりします。悪い女に惚れてしまったな安達よ。
まぁ基本的に他人への興味無い彼女だからこそ、安達にだけ見せる悪戯心や好意などの人らしい情感に魅力を感じるのかもしれません。
しまむらの事ロボットか何かと思ってない?

安達としまむらが描く百合

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百合とは何ぞや
そんな問題提起をするとたちまち紛争が発生するのでやめておきます。人は争いをやめられぬ生き物……。
私は百合が好きなのですが、いやもう少し詳しく言うと百合の中でもガールズラブの域にある作品が好きです。
恋愛感情とそれ以外は別のもの、少なくとも感じられる魅力は別物だと私は思っています。性的でない親密な関係は、ボーイズラブ界隈ではブロマンスと呼ばれ区別されるらしいですが、百合界隈では全て含めて呼称していて若干面倒ですね。なのではっきりとガールズラブと区分けしておきます。
さて、ガールズラブが描くものとは何でしょう。
下心の無いスキンシップ、同性ゆえの葛藤、友情から恋愛への変遷、単に美少女同士がくっつけばいい、などなど多岐に渡ります。中でも個人的に注目しているのは「距離の近さ」です。
男女となると、友情段階でも性を意識しなくてはいけませんし、スキンシップまでいけばもう男女の関係一直線です。女同士において手を繋いだり抱き合ったりなどは所詮友情の範疇であり、どうという事ではありません。これは大きな差であり、百合の強みでもあります。
では『安達としまむら』はどのようなラブを描いているのでしょうか。
結論から言って、『安達としまむら』が描くものは「距離の近さ」が織りなす特別な関係だと思っています。
まず性の問題については、作中で女同士が普通ではないということを自覚していますが、特に問題提起はしていないので省きます。
そして、この作品は基本的に感情の変化を事細かに描いています。安達は些細な独占欲から始まり、特別な感情の芽生え、友情から恋への変容。そしてしまむらは安達への薄い関心から明確な興味、友情の許容、特別な感情の芽生えと。お互いにズレながらも進んでいく感情の機微をおそろしく丁寧に描いています
特に何かしらのイベントを経て感情が移行するわけでもなく、本当に些細な日常の中でじわじわと変化・自覚していくのです。
このようなシームレスな感情の変化は、意外にも他の百合作品ではあまり見られません。
軽めの百合作品では当然恋愛の域に到達することはありませんし、行ってギャグ的な劣情描写が多いです。ガールズラブ作品でも最近は一目惚れや、好意が一気に恋愛感情へ飛ぶものが多く見られます。それはそれで好きですけどね、ジェンダーの問題とか面倒だし。
一応、感情の変化が丁寧なものでぱっと思いつく作品はGIRL FRIENDS桜trickあたりがありますか。あと短編集でそこそこ見ます。いや忘れてるだけで思ったよりたくさんあるかもしれん。他にあれば教えてください。
話を戻しまして、『安達としまむら』のラブの話です。
作中で安達は特別な関係を求めて熱烈なアプローチを行い、しまむらは多少訝しみながらも女同士だしまぁいいかと受け入れます。これが男女なら成立しません。安達は友情を育むための手段としてスキンシップに踏み切っているだけですし、しまむらもそう受け取っています。そしてこれが段々と肥大化した結果、ようやく恋愛感情へと行き着きます。
この辺、下手に描くと疑似恋愛、男性の代替、若気の至りとして冷めた目で見られてしまうこともあります。一番近い相手がこの時たまたま同性だっただけ、男を知らないだけだと。
しかし、『安達としまむら』はその偶然を否定します。時間の動きを大胆に描くことで、そして「運命」という概念を利用することで必然であることを強調しているのです。これこそ『安達としまむら』が持つ秀逸な点です。
10年後を描くことで高校生の頃に抱いた二人の想いが偽りのない確かなものだったと提示していますし、ifの世界を描くことで「運命」の出会いであった事を立証しています。
これほどまでに偶然を捻じ伏せ、不可逆性を示し、関係性を確立させた百合作品を私は他に知りません。
誰にも否定できない特別な関係の明示
これこそが『安達としまむら』が到達したガールズラブにおける一つの極致だと、私はそう感じるのです。

運命について

私は運命という概念が好きです。
ベートーベン交響曲第5番とかたまに聴くし、Fate/staynightは何度もプレイしてるし、ペルソナシリーズでは毎回フォルトゥナ作るし。
でもペルソナ3のフォーチュンは嫌いです。
あとホイール・オブ・フォーチュンも特に何も思うところはありません。
よく考えたら特に運命とか好きじゃないっぽいな。
それはそれとして、運命って何でしょうね。
Wikipedia曰く、

・人間の意志をこえて、人間に幸福や不幸を与える力のこと。あるいは、そうした力によってやってくる幸福や不幸、それの巡り合わせのこと。
・人生は天の命によって定められているとする思想に基づいて考えられている、人の意思をこえて身の上に起きる禍福。

・将来のなりゆき。

ja.wikipedia.org

らしいです。なんとなく言いたいことは分かります。
この概念は古代ギリシャから生まれており、哲学者達はロゴス(神)が定める真理を「運命」と呼びました。
そしてその思想は自然科学へ受け継がれ、量子力学の領分へと……なんの話してるんでしたっけ。

 

それにしてもあれですね。私達に降りかかる巡り合わせは、何が偶然で何が必然なのでしょう。
誰にも分かりません。
安達としまむら』では、ヤシロの存在によってそれは証明されます。
バナナが特定の成分で構成されることによってバナナたりうるように、世界が世界たりうる要素があるということらしく、
その要素の中に「安達桜と島村抱月は必ず出会う」というものがあるとヤシロは語ります。
つまるところ、世界の仕組上必ず起こる出来事。まさに必然という事でしょう。
量子論やらラプラスの悪魔やらの話が出てきそうな不穏な雰囲気になってきました。
またヤシロは、この世界(本編世界)が他の世界と異なる理由を、しまむらと自分との出会いがあるか否かだと言いました。ヤシロは一人しかおらず、自分がこの世界にいるのはこのしまむらがいたからだとも語り、それを総括して「うんめー」と呼称します。
安達としまむらの出会いが運命であり、しまむらとヤシロの出会いもまた運命である。そういう運命の輪で構成されたこの世界こそが、私達の見ている『安達としまむら』なのでしょう。
ロマンチックでいいですね、こういうの好きです。
じゃあ私がこんな長ったらしいブログを書いているのも運命なのでしょうか。ヤシロ、教えてくれ。

 

関係無いですけど、西洋哲学においてストア派という学派は運命を克服するための思想を説いていたらしいです。ディアボロみたいな奴らだな。

『Chito』

安達としまむら Blu-ray 1(特典なし)

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  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: Blu-ray
 

ブルーレイを買ってから特典小説が付いているという事に3週間くらい気付いていませんでした。
まさか大人な安達としまむらが再び読めると思っていなかったので僥倖でした。

 

舞台は安達としまむらが生きた時代から3700年後、ヤシロは地球ではないどこか遠い星でチトという人物と出会う。
スター・ウォーズかな?スター・ウォーズは遠い昔の話ですが。

メイン・タイトル (エピソード IV:新たなる希望)

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  • ジョン・ウィリアムス作品集
  • サウンドトラック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

ヤシロがチトに昔話を聞かせるという流れで舞台は3700年前に戻ります。
一緒に買い物をする安達としまむら
帰宅の遅い安達を待つしまむら
休日に部屋でくっついて過ごす二人。
もう何も言うこと無いですね。
一言申しますと、この話の中でしまむらは安達の帰宅を待つ間寝て過ごす事を拒むのですが、
安達としまむら』7巻にこんな一節があります。

ああ。
この安達との触れ合いがなにより尊くなって。
安らぎはひとときでいいと、早く思えるようになりたい。

 

"成った"な。

 

 

 

 

 

意気揚々と二次創作を上げて満足しているところに公式が突如『本物』を投下してくる。
そういう世界に私は生きている。